更新日:2024年5月27日
腸内フローラと免疫の関係とは?免疫機能を健やかに保つための方法も紹介
監修:内藤 裕二 先生(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授/一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長)
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腸内フローラを整えると、免疫機能にどのような影響があるのでしょうか。免疫は、細菌やウイルスといった異物から私たちを守ってくれる体の仕組み。実は、その機能の多くを担っているのは「腸」だといわれています。免疫機能を保つには、腸内フローラを整え、善玉菌を産生する「短鎖脂肪酸」を増やすことが大切です。ここでは、腸内フローラと免疫の関係や、免疫機能を保つ方法を紹介します。
そもそも免疫って何?
「免疫」とは、私たちの体に備わっている防御システムのこと。体の中に入ってきた細菌やウイルス、アレルギー物質、体内で変異したがん細胞など、自分の体を構成する細胞や物質とは異なるものを見つけ出して排除する体の働きを指します。
免疫には、「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類がある
「自然免疫」は、生まれつき体に備わっている免疫機能です。自然免疫では、免疫細胞が病原体や異物を排除することで、病気にならないように体を守ってくれています。白血球の仲間である好中球やマクロファージなどが自然免疫で働く免疫細胞の代表です。
一度病気にかかると、自然免疫によって他の免疫細胞が活性化されます。その結果、「B細胞」や「T細胞」と呼ばれるリンパ球が、その病原体をピンポイントに攻撃する細胞に変化します。もともと体に備わっている自然免疫に対して、後天的に得られるこのような免疫機能を「獲得免疫」といいます。
これらの自然免疫と獲得免疫が正常に働くと、一度かかった病気に再びかかりづらくなり、発病したとしても体が抵抗できるようになります。一方、免疫機能が弱まった状態では、病原菌や異物を排除できず、風邪・インフルエンザなどの感染症に感染しやすくなったり、がんになるリスクが高くなったりする可能性も。そのため、体の健康のためには、免疫機能を保つことが重要なのです。
免疫の要は、免疫細胞が多く集まっている「腸」
免疫機能を担う免疫細胞の約70%は、実は「腸」に存在しているといわれています。
腸は、食べ物を消化・吸収する器官のため、食べ物と一緒に侵入したウイルスや病原菌が体内に取り込まれるリスクも高くなっています。そこで、こうした異物を排除するべく、腸の内側にはたくさんの免疫細胞や抗体(病原菌を体内から排除するためにつくられる物質)が集まっているのです。
腸のこうした免疫機能は「腸管免疫」と呼ばれています。特に、小腸の腸壁にある「パイエル板」は多くの免疫細胞が集まる重要な免疫器官。先ほど紹介したB細胞やT細胞などの免疫細胞も、このパイエル板に集中して存在しています。
腸は体の免疫機能を担う重要な器官
近年、体にとって有害な異物をB細胞やT細胞などに学習させる訓練が、小腸で行われていることもわかってきています。訓練された免疫細胞は、腸だけでなく、血液を通じて全身に行き渡り、体の各所で病原体と戦います。
このように、体全体に影響を及ぼす免疫細胞がしっかり働くためには、腸管免疫が正常に機能するよう、腸内環境を整えることが大切なのです。
腸内フローラと免疫の深い関係
上記の通り、腸管免疫が正常に働くためには、腸内環境を整えることが重要です。さらに、免疫機能を保つために重要なのが、主に小腸や大腸などの消化管において腸内細菌が作り出している「腸内フローラ」。最近の研究から、腸内フローラが体全体の免疫機能と密接に関わっていることがわかってきています。
腸内フローラとは
私たちの腸内には、「腸内細菌」と呼ばれる細菌が、種類ごとに集まって腸の壁に棲みついています。その様子がお花畑のように種類ごとに集まって群生している(英語でflora:植物相、植生)ように見えることから、一般的に「腸内フローラ」と呼ばれているのです。
腸内細菌は、腸内に約1,000種類・100兆個存在し、「善玉菌(有用菌)」(※以下、善玉菌)、「悪玉菌(有害菌)」(※以下、悪玉菌)、「日和見(ひよりみ)菌」の3種類に分けることができます。
免疫における腸内フローラの重要性
最近の研究から、腸内の免疫細胞だけでなく、腸内フローラも免疫機能の維持に大きな役割を果たしていることがわかってきました。
腸内フローラを形成する腸内細菌は、私たちの腸の中でお互いに影響を与え合いながら、増えたり減ったりを繰り返しています。例えば善玉菌には、乳酸や、短鎖脂肪酸と呼ばれる酪酸・酢酸などを作り出して腸内を弱酸性にし、腸の動きを促進する働きがあります。また、病気の原因となる悪玉菌の増殖を防いで病気を予防する役割も。日和見菌は、善玉菌・悪玉菌のどちらにも属さない細菌ですが、中にはどちらかが優勢になると同じ働きをすることがある菌もいます。
体の免疫機能は、これらの腸内細菌のバランスが取れていないと正常に維持することができません。私たちの体では、バランスの整った腸内フローラが腸管の免疫系を適切に活性化することで、免疫機能が保たれているのです。最近の研究では、腸内フローラのバランスが乱れていると、自己免疫疾患やアレルギー疾患、がん、肥満症などの発症や病態に影響が出ることもわかってきている*1ので、注意が必要です。腸内フローラの理想的なバランスは「善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7」。善玉菌を優位にすると、一部の日和見菌を味方につけることもでき、悪玉菌の増殖が抑えられます。
- *1 Shimpei Kawamoto,et al.Immunity.2014 Jul 17;41(1):152-65
腸内フローラが作り出す「短鎖脂肪酸」が免疫機能を保つカギ
善玉菌が作り出す酸の中には、酪酸や酢酸、プロピオン酸といった「短鎖脂肪酸」と呼ばれる物質があります。実は、この短鎖脂肪酸が体の免疫機能を保つカギなのです。
先ほども解説したように、腸管の免疫を活性化させるには、バランスが整った腸内フローラの形成が欠かせません。短鎖脂肪酸には、腸内を弱酸性にして、悪玉菌の増殖を防ぎ、腸内フローラを整える働きがあります。加えて、ぜん動運動(腸の内容物を先へ先へと運ぶための運動)を促進して便秘を防いだり、粘液の分泌を促進して軟便を改善したりなど、お通じをサポートする効果も。このように、腸内環境を整えて免疫機能を保つためには、短鎖脂肪酸が重要なのです。
また、短鎖脂肪酸の一つである「酪酸」には、小腸の腸壁に存在するT細胞などに働きかけ、免疫機能をコントロールする働きがあるといわれています。さらに、最近の研究から、全身の免疫機能の調節にも、短鎖脂肪酸が密接に関わっていることがわかってきています*2。このことからも、短鎖脂肪酸は免疫機能の維持に欠かせない存在といえます。
- *2 栄研化学「モダンメディア」,63巻2号 2017,シリーズ 腸内細菌叢7,「腸内細菌による免疫制御」
免疫活性に欠かせない短鎖脂肪酸を増やす方法
免疫機能の維持に不可欠な短鎖脂肪酸。体の健康のために、ぜひ増やしたいところですよね。短鎖脂肪酸を増やすにはまず、食事や運動、睡眠などを意識することが大切です。ここからは、短鎖脂肪酸を増やすための基本的な方法をご紹介します。
食物繊維やオリゴ糖などの「難消化性炭水化物」を摂取する
まずは、善玉菌が短鎖脂肪酸を作り出すときに必要な「難消化性炭水化物」を食事から摂取しましょう。
難消化性炭水化物とは、食物繊維やオリゴ糖などの消化・吸収が難しい炭水化物のこと。食物繊維には、大麦や海藻類などに含まれる水溶性食物繊維と、豆類やきのこ類をはじめとする不溶性食物繊維があり、どちらも健やかな体をつくるために欠かせません。オリゴ糖を多く含む食品としては、きなこやはちみつなどが挙げられます。こうした食品をバランスよく摂取すると良いでしょう。
善玉菌を摂取する
善玉菌そのものを摂取することも有効です。食物繊維やオリゴ糖といった善玉菌の”エサ”とともに、善玉菌自体も摂り入れることで、効率的に短鎖脂肪酸を増やすことができます。
乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌などの善玉菌は、ヨーグルトや納豆、漬物などの発酵食品に多く含まれています。善玉菌は一度腸に届いたとしても、長く棲みつくことはないので、日頃から積極的に摂取することが大切です。
サプリメントや市販薬を活用するのも一つの手
仕事や育児などで忙しく、食品から善玉菌や食物繊維が摂れないときは、サプリメントや市販薬を活用するのもおすすめ。中には善玉菌が配合された整腸剤もあり、効率良く短鎖脂肪酸を増やすことが期待できるでしょう。
また、免疫機能を保つには、腸内細菌の多様性を維持することも大切です。乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌など、働きや働く部位の異なる善玉菌がバランス良く配合された整腸剤を活用すると良いでしょう。
適度な運動を習慣化する
運動をすると善玉菌が増えるという報告もあります。
具体的には、少し息が上がる程度の運動を1日30分程度行うか、ランニングなどの有酸素運動を週3日程度行うのがおすすめです。
十分な睡眠を取り、生活リズムを整える
睡眠が不足していたり、体内時計が乱れていたりすると、腸内フローラが乱れるリスクがあるという報告*3もあります。睡眠によって疲労が回復されると、ウイルスや病原菌に対する抵抗力も高まります。毎日、十分な睡眠を取るようにしましょう。
また、寝る時間や起きる時間を一定にして、生活リズムを整えることも大切です。自律神経のバランスがよくなるので、結果として免疫機能の維持にもつながります。
- *3 Benedict C, Vogel H, et al.: Mol Metab. 2016 Oct 24;5(12): 1175-1186.
免疫機能を保つために、腸内フローラを意識した生活を!
体の中にある最大の免疫器官は「腸」。免疫機能を保つためには、腸内フローラのバランスを整え、短鎖脂肪酸を増やすことが大切です。短鎖脂肪酸を増やすには、善玉菌や、善玉菌のエサとなる食材を摂取すると良いでしょう。食事から摂るのが難しいときは、サプリメントや整腸剤などの市販薬を活用するのもおすすめです。
- [参考文献]
-
- 厚生労働省 e-ヘルスネット
- 栄研化学「モダンメディア」,63巻2号 2017,シリーズ 腸内細菌叢7,「腸内細菌による免疫制御」