更新日:2024年02月07日
短鎖脂肪酸とは?腸との関係や短鎖脂肪酸を増やす食べ物についても解説
監修:内藤 裕二 先生(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授/一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長)
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短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)は腸に良いとされ近年注目を集めています。名前を聞いたことはあっても、「そもそもどんな物質で、どうして腸に良い効果があるのかわからない」という人も多いのではないでしょうか。
本記事では、短鎖脂肪酸について、腸内を整える効果のある「善玉菌」との関係や、体内での働きを解説します。短鎖脂肪酸を腸内で増やす食事やサプリメント・整腸剤についてもご紹介しますので、腸の健康維持にぜひお役立てください。
短鎖脂肪酸とは
そもそも脂肪酸とは、油脂を構成する成分の一つです。複数の炭素が鎖のように連なった化学構造をしており、そのうち炭素の数が6つ以下だと「短鎖脂肪酸」と呼ばれます。
短鎖脂肪酸には複数の種類がありますが、人の腸内で腸内細菌により産生される主要なものは、炭素が2つの「酢酸」、炭素が3つの「プロピオン酸」、炭素が4つの「酪酸」と呼ばれているものです。
短鎖脂肪酸は、食物繊維やオリゴ糖などの大腸で消化しにくい難消化性炭水化物を摂取したときに、腸内で善玉菌によって分解される際に生み出されます。
近年の研究から、短鎖脂肪酸が健康に役立つさまざまな働きをすることがわかってきています。
腸内フローラ・善玉菌・短鎖脂肪酸の関係
ヒトの腸内には、1,000種類・100兆個もの多種多様な細菌が集まって生息しており、その様子がお花畑のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれています。
腸内に生息する細菌は、からだに良い影響をもたらす「善玉菌(有用菌)」(※以下、善玉菌)、悪い影響をもたらす「悪玉菌(有害菌)」(※以下、悪玉菌)、どちらにも属さない「日和見(ひよりみ)菌」の3つに大きく分類され、その割合は、健康な日本人の場合、およそ2:1:7とされています。
しかし肥満や糖尿病、大腸がん、動脈硬化といった疾患を持つ人の腸内では、このバランスが崩れていることが知られています。
善玉菌は、乳酸や短鎖脂肪酸などの生成によって腸内を弱酸性にすることで悪玉菌の増加を抑え、発がん性をもつ腐敗物質の発生を防いだり、腸の運動を活発にしたりします。
大腸の働きを維持するためには、多くのエネルギーが必要ですが、短鎖脂肪酸の中でも酪酸は主要なエネルギー源となり、大腸の正常な働きを助けます。
腸や体の健康のためには、腸内フローラのバランスを整え、腸内で短鎖脂肪酸を産生させることが大切なのです。
短鎖脂肪酸の役割
短鎖脂肪酸は、「腸内環境を整える」「排便を促す」といった腸の健康に役立つ働きをするだけでなく、肥満の予防やコレステロールの合成抑制など、体全体にさまざまな嬉しい効果をもたらすことがわかってきました。
腸内環境を整える
善玉菌によって産生された短鎖脂肪酸は腸内を弱酸性にするため、酸性に弱い悪玉菌の増殖を抑えることで、発がん性のある腐敗物質の発生を抑えます。
また、短鎖脂肪酸には腸内の免疫機能を活性化させる働きもあり、細菌による感染を予防するなど、腸内環境を整えることも知られています。
排便を促す
短鎖脂肪酸には、腸内の内容物を先へ先へと運ぶ「ぜん動運動」を活発にして、排便を促す働きもあるとされています。そのため、自然な快便をもたらし、便秘を防いでくれる効果があります。
大腸のバリア機能を高める
大腸には、腸管内壁の表面を粘液で覆うことで細菌などが体内へ侵入するのを防ぐバリア機能があります。
大腸のバリア機能が正常に働くためには、粘液が十分に分泌されて腸管内壁の表面がしっかりとコーティングされ、便や細菌が直接腸に触れずにスムーズに排泄される状態を保つ必要があります。
短鎖脂肪酸にはこの粘液の分泌を促す働きがあるため、大腸のバリア機能を高め、病気を予防する効果もあるのです。
大腸・肝臓・筋肉のエネルギー源になる
腸内で作られる「酪酸」「酢酸」「プロピオン酸」といった短鎖脂肪酸は、大腸の上皮細胞や肝臓、筋肉のエネルギー源にもなっています。
酪酸の多くは、大腸の表面を覆う上皮細胞内で代謝され、大腸が健やかに働くためのエネルギー源になります。エネルギー源は他にもありますが、酪酸が優先的に使われるため、欠かすことができません。
また、酢酸やプロピオン酸は大腸の上皮細胞から吸収された後、肝臓や筋肉で代謝されてそれらのエネルギー源になり、1日のエネルギー消費のうち、2〜10%をまかなうと言われています。
ミネラルの吸収を促進する
カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラルは、体の細胞が正常に働くために必要不可欠ですが、体内で作り出すことができないため、食事から摂取し、吸収する必要があります。
短鎖脂肪酸は、そうしたミネラルが腸内で吸収されるのを促進すると報告されています。食事やサプリメントから摂取したミネラルをしっかりと吸収して細胞に届けるためにも、短鎖脂肪酸が重要なのです。
コレステロールの合成を抑制する
腸内における短鎖脂肪酸の濃度が高まると、コレステロールの合成が抑制されるという報告もあります。
食物繊維やオリゴ糖などの難消化性炭水化物は、腸内で短鎖脂肪酸を産生する善玉菌のエサになります。
その中でも、大麦や海藻類などの水溶性食物繊維は善玉菌によって分解されやすいため、短鎖脂肪酸を多く作り出すことができるのです。そのため、水溶性食物繊維を積極的に摂取することで、結果的にコレステロールの合成を抑制することができると言われています。
肥満を防ぐ
短鎖脂肪酸は、食欲のコントロール、脂肪蓄積の抑制、脂質やブドウ糖の代謝促進といった働きも担っており、結果として肥満を防ぐ効果があることが最近の研究からわかってきています。
腸管にある内分泌細胞から分泌されるホルモンには、摂食中枢に作用して食欲をコントロールする働きがあり、短鎖脂肪酸はこれらのホルモンの分泌を調整しています。
また、短鎖脂肪酸は体内に取り込まれていない脂質やブドウ糖の代謝を促進する役割を担っていたり、体内で過剰となったエネルギーが脂肪細胞に脂肪として蓄積されるのを抑制したりという働きがあるとの報告があります。
こうした働きから、短鎖脂肪酸が肥満を防止できることが示唆されているのです。
まだはっきりとはわかっていませんが、腸内フローラのバランスが乱れて善玉菌が減少すると短鎖脂肪酸の数も減るため、肥満に繋がるのではないかと言われています。そのため、善玉菌を積極的に摂り入れて短鎖脂肪酸を増やすことは、肥満防止にも効果があるかもしれません。
短鎖脂肪酸を増やすためには
短鎖脂肪酸は酸性の物質で、味や臭いが独特なため、十分な量を口から摂取することは難しいと言われています。たとえば酪酸菌が産生する短鎖脂肪酸のひとつである酪酸が含まれる食品は、ぬか漬けや臭豆腐くらいしかありません。
また、食事などから摂取した短鎖脂肪酸は、その多くが胃や小腸で吸収されてしまうため大腸にはほとんど届かないと言われています。
短鎖脂肪酸は、腸内で善玉菌などの発酵によって作り出されるため、大腸での短鎖脂肪酸の産生につながる善玉菌を摂ることを意識しましょう。また、その善玉菌のエサとなる食物繊維などの摂取も重要です。
食事だけでなく、サプリメントや整腸剤を合わせて活用すると、効率的に善玉菌を摂取し、短鎖脂肪酸を増やすことができるのでおすすめです。
善玉菌が多く含まれる食べ物を摂る
短鎖脂肪酸を増やすためには、善玉菌を多く含む食品を摂ることが重要です。
ヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、漬物、味噌といった発酵食品は、乳酸菌や酪酸菌、ビフィズス菌などの善玉菌を多く含んでいます。こうした食品を積極的に摂って、腸内の善玉菌を増やしましょう。
善玉菌のエサになる食材を摂る
善玉菌と一緒に、そのエサとなる食物繊維やオリゴ糖などの難消化性炭水化物も摂取しましょう。
食物繊維は、大麦や海藻類をはじめとする水溶性食物繊維と、きのこなどの不溶性食物繊維に分類されますが、善玉菌のエサになりやすいのは水溶性食物繊維です。
豆類はこれまで不溶性食物繊維が多いとされてきましたが、実は水溶性食物繊維も多く含まれ、金時豆、大豆、小豆などに多く含まれます。
また、オリゴ糖は玉ねぎ、にんにく、バナナ、はちみつなどに多く含まれます。
性質・機能 | 多く含む食品 | |
---|---|---|
水溶性食物繊維 | 腸内細菌のエサになり、善玉菌を増やす。発酵・分解されて作られた短鎖脂肪酸が腸内環境を整える。コレステロールや糖の吸収を抑制する働きも期待できる。 |
|
不溶性食物繊維 | 腸内で水分を吸収して膨らみ、便のカサを増やすことで排便を促す。 |
|
オリゴ糖 | 腸内細菌のエサになり、善玉菌を増やす。オリゴ糖のひとつであるフラクトオリゴ糖は、短鎖脂肪酸の産生、排便回数増加、糖尿病予防作用と肥満抑制作用などの働きも期待できる。 | 玉ねぎ、にんにく、バナナ、はちみつ |
サプリメントや整腸剤を活用するのも手
短鎖脂肪酸を作り出してくれる酪酸菌やビフィズス菌、またそれらの菌の増殖を助ける乳酸菌といった善玉菌は、ある程度の期間は腸内に存在しますが、棲み着くことはないため、毎日続けて摂取する必要があります。
特に、積極的に摂取したいのが、短鎖脂肪酸のひとつである「酪酸」です。酪酸は酪酸菌によってのみ作り出される脂肪酸で、大腸の主要なエネルギー源として腸の正常な働きを支えています。
しかし、酪酸は銀杏の実のような独特な匂いが特徴で、含まれる食品も限られているため、普段の食事から直接摂取するのは難しいと言われています。
また、前述のとおり、酪酸そのものを摂取しても胃や小腸で吸収されてしまうため、大腸まで酪酸を届けるには、大腸で酪酸を産生する酪酸菌含有の整腸剤を活用するのがおすすめです。
お酒はほどほどに
アルコールを摂りすぎると、悪玉菌が増えて優勢になり、腸内フローラのバランスが崩れる恐れがあります。
善玉菌の減少は短鎖脂肪酸の減少にも繋がるため、お酒をのむときはほどほどの量に抑えましょう。具体的には、ビールなら中瓶1本程度、ワインならグラス2杯程度が適量の目安です。
適度な運動を習慣化する
運動には、善玉菌を増やす効果があると言われています。善玉菌を増やすには、少し息が上がるくらいの運動を1日30分程度、もしくは、有酸素運動を週に3日ほど行うのがおすすめです。
例えば、少し息が上がるくらいの運動であればジョギングや水泳、有酸素運動であればウォーキングなど。取り組みやすいものを日常的に行い、適度な運動を習慣化しましょう。
規則正しい睡眠を心がける
睡眠不足や体内時計の乱れは、腸内フローラが乱れる原因になります。短鎖脂肪酸を増やすためには、善玉菌の多い整った腸内フローラが必要です。まずは十分に睡眠をとることを心がけましょう。
また、徹夜や寝溜めは体内時計を狂わせる原因に。仕事や学校のある日だけでなく、休日であっても、毎日決まった時間に寝て、決まった時間に起きるようにするとよいでしょう。
短鎖脂肪酸を増やすには毎日の取り組みから!
短鎖脂肪酸は腸内環境を整えたり、肥満を防いだり、嬉しい効果をもたらしてくれます。短鎖脂肪酸を増やすためには、酪酸菌やビフィズス菌、またそれらの菌の増殖に役立つ乳酸菌などの善玉菌や、食物繊維を普段の食事から摂り入れてみましょう。食品から毎日摂取するのが難しい場合は、サプリメントや整腸剤を活用するのも一つの手です。
- [参考文献]
-
- 内藤 裕二(著).すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢〜基本知識から疾患研究、治療まで 羊土社,2021.
- 尾池洋美(著).フラクトオリゴ糖添加豆腐の摂取が日本人女性の便通および糞便フローラに与える影響 健康・栄養食品研究 = Journal of nutritional food 2 (2), 43-51, 1999.
- 原博(著).プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果, 腸内細菌学雑誌,16,35-42,2002.
- 独立行政法人農畜産業振興機構 プレバイオティクスとフラクトオリゴ糖~シュガーリプレイスメントから免疫改善まで~ https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002908.html
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