更新日:2025年11月27日
悪玉菌を減らす方法とは?悪玉菌が増える原因や腸内環境に与える影響も解説
監修:内藤 裕二 先生(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授/一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会副理事長)
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腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」という名称で呼ばれることが多いですが、腸内細菌を一般の方にもわかるように「善玉」「悪玉」と分類したのは、日本で腸内細菌研究の礎を築いた東京大学名誉教授だった光岡知足博士です。「悪玉菌」と聞くと、その名称から「減らした方が体に良いのでは」と考える人が多いかもしれません。たしかに腸内に悪玉菌が増えると、便秘や免疫機能の低下など、体への悪影響を引き起こすといわれています。一方で近年の研究では、悪玉菌の中にも体に良い働きをする菌もいることがわかっています。つまり、健康を維持するためには、悪玉菌だからといって減らすことだけが重要なのではなく、腸内細菌の多様性とそのバランスを保つことが大切なのです。ここでは悪玉菌を減らす方法や、悪玉菌が増える原因、腸内細菌の多様性を保つために取り入れたい習慣などを解説します。
悪玉菌とは?
「悪玉菌(有害菌)」(※以下、悪玉菌)は腸内細菌の一種で、有害物質を作り出して腸内をアルカリ性にする働きをもっています。悪玉菌は体に良くないイメージがあるかもしれませんが、肉類などの動物性タンパク質を分解して体内で利用できるようにし、便として排泄するという生命活動には欠かせない役割も果たしています。
代表的な悪玉菌と、その増殖による急性的な影響
・大腸菌(病原性)
大腸菌の多くは無害ですが、一部の「病原性大腸菌」と呼ばれるものは健康にダメージを与えることがあります。例えば下痢を引き起こしたり、尿路感染症の原因となったりします。また、腸管出血性大腸菌(O-157)のように毒素を作り出す大腸菌もあり、その毒素のために子どもや高齢の方では重症化してしまうこともあります。最近の研究では、大腸菌のなかに大腸がんに関与する発がん物質をつくるものや、炎症性腸疾患に関与する炎症性サイトカインをつくるものがあることがわかってきています。
・ブドウ球菌
菌が集まっている状態を顕微鏡で見るとブドウの房のように見えることから、「ブドウ球菌」と名付けられた細菌です。人や動物の多くに常在する(どこにでも存在している)菌ですが、炎症を引き起こしたり、毒素を作り出したりする作用があるため、量が増えすぎると健康を害してしまいます。腸内のブドウ球菌が増えすぎた場合には、腸炎が引き起こされて、腹痛や下痢などが生じることがあります。他にも、抗生物質に抵抗性を示すブドウ球菌の出現が医療で問題になってきています。
・ウェルシュ菌
土の中や川、海、下水、食品など、自然界に広く分布している細菌で、動物の腸内細菌としても存在しています。ウェルシュ菌は腸内で毒素を作り出すため、この菌が腸内で大量に増殖した場合、その毒素によって腸炎が引き起こされます。それにより、下痢や吐き気などが生じることがあります。
悪玉菌が増えることで起こり得る、体への慢性的な影響
前項では悪玉菌が急増した場合に生じる急性の影響について解説しましたが、そのような急性症状を来す他に、悪玉菌が多いと健康が慢性的に阻害される(悪化してしまう)ことがあります。下記のような症状があり、日頃からなんとなく体調が優れないという場合は、腸内の悪玉菌が優勢になっているのかもしれません。
便秘や下痢
腸内で「善玉菌(有用菌)」(※以下、善玉菌)が優勢のときには、腸の壁からしっかりと栄養素や水分が吸収され、腸のぜん動運動(内容物を先へ先へと運ぶための運動)も順調に行われます。しかし悪玉菌が優勢になると、悪玉菌の出す有害物質がぜん動運動を抑制するように働くため、便秘になりやすい状態が慢性化してしまうことがあります。
またそれとは反対に、悪玉菌が出す有害物質を早く体外に排出する必要があるため、下痢になりやすい状態が慢性化することもあります。
肌荒れ
悪玉菌が作り出す有害なガスは、おならの臭いの原因となるだけでなく、腸の粘膜から血液中に吸収されて全身を巡り、一部は皮膚から汗などにまざって排出されます。また悪玉菌によって、腐敗産物のフェノール類が多くなり、それらも血流にのって皮膚に到達します。
このような変化は、肌荒れの原因となり得ます。さらに、悪玉菌が多いために便秘になっている場合には、食物が腸を通過する時間が長くなるために、こうした影響がより強まってしまいます。
免疫機能の低下
腸には全身の免疫細胞の60~70%が集まっているとされ、「腸は最大の免疫器官」といわれています。そのような免疫器官としての腸の働きを支えているのは、腸内細菌です。
腸内で悪玉菌が優勢だと、腸のバリア機能が低下して病原菌が体内に侵入しやすくなったり、免疫細胞が病原菌と戦うための“学習”が十分行われなくなったりして、免疫機能が低下してしまいます。腸内細菌のバランスの乱れが腸管免疫の低下を介して、感染症やアレルギー性の病気のかかりやすさに関連していることも明らかになってきています。感染症やアレルギーのコントロールに重要な制御性T細胞(2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文先生が発見したことで有名)も、酪酸菌などの腸内細菌の一部によって誘導されます。
悪玉菌はなくしたほうが良いの?
ここまで見ると、悪玉菌が増えることによる健康への悪影響にはさまざまなものがあることがわかるでしょう。しかしすでに解説した通り、悪玉菌は生命活動に欠かせない役割ももっているため、ただ減らせば良いというわけではないのです。
健康のためには「腸内フローラ」の多様性を保つことが大切
人の腸内には約1,000種類、100兆個の腸内細菌が生息しています。これらの腸内細菌の集まりのことを、「腸内フローラ」と呼んでいます。
腸内フローラは、善玉菌、悪玉菌、そして、善玉菌と悪玉菌のうちどちらか優勢な方と同じ働きをする「日和見(ひよりみ)菌」という計3つのタイプで構成されています。これらの理想的なバランスは「善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7」であり、善玉菌を優勢にしておくことが健康にとって好ましいといわれています。
しかし近年の研究では、善玉菌とされていたものの中にも悪い働きをする菌がいたり、悪玉菌や日和見菌だと思われていたものの中にも良い働きをする菌がいたり、悪玉菌も含めてさまざまな腸内細菌がいることが善玉菌の働きにつながるという側面もあることがわかってきました。そのため、健康を維持するには悪玉菌をなくしてしまうのではなく、腸内フローラ全体の多様性を高く保つことが大切と考えられるようになってきています。
悪玉菌が増える原因
それでは、どのようなことが原因で悪玉菌が増え、腸内フローラの多様性が崩れてしまうのでしょうか。原因は1つではなく、以下に挙げるようなことがいくつか重なり合って、腸内フローラの変化が起こることが多いと考えられています。
加齢
歳を重ねるほど、善玉菌が減り悪玉菌が増加することが知られています。
これには、加齢による体の諸機能(味覚・嗅覚、咀嚼〈そしゃく〉・嚥下〈えんげ:飲み込むこと〉、消化、身体的活動量など)の低下、食生活の変化、生活環境の変化、抗菌薬の処方の増加などが関連していると考えられています。
食生活の乱れ
赤肉(牛、豚、羊)やソーセージのような加工肉、トランス脂肪酸を多く含む食品(バターなど)、食物繊維が少なく糖が多く使われている食品、「超加工食品」と呼ばれるような化学的な加工技術を用いて作られた食品(インスタント食品、菓子類など)は、悪玉菌を増やしやすいことが知られています。他にも、人工甘味料や塩分の過剰摂取も悪玉菌の増加に関係していると考えられています。
ストレス
ストレスも悪玉菌を増やす原因の1つです。ストレスが大きいほど腸内フローラの多様性が低いことや、善玉菌が少ないとストレスホルモンが増えることなども知られています。また、ストレスが腸内フローラのバランスを崩し、それによって新たなストレスを引き起こすという悪循環を招いてしまうことも起こり得ます。
近年の研究では、腸の働きは単に食べた物の栄養素を吸収するだけでなく、腸内フローラを介して脳の働きと密接に関連していることが明らかにされています。このような相互の働きは「脳腸相関」と呼び、このような関係から「腸は第二の脳」ともいわれています。
悪玉菌を減らすために食生活で意識したいポイント
プロバイオティクスを摂り入れる
「プロバイオティクス」とは、人の健康に有益と考えられる細菌、つまり善玉菌そのものや善玉菌を含む食品を摂取することです。それによって、腸内の悪玉菌が劣勢になり、腸内フローラのバランスが整えられることが期待できます。
プロバイオティクスとして摂取する善玉菌の種類としては、乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌、納豆菌、酢酸菌などが挙げられます。そして、これらの善玉菌を含む食品の例としては、乳酸菌はヨーグルトなどの発酵食品、酪酸菌はぬか漬け、納豆菌は納豆、酢酸菌はお酢などが挙げられます。ビフィズス菌に関しては自然界の食品中にはほとんど存在せず、プロバイオティクスとして活用するには、「ビフィズス菌入り」とうたわれている食品、多くは特定保健用食品または機能性表示食品などを利用することになります。
・便秘を予防するには、酪酸菌の働きが重要
すでに解説したように、悪玉菌が増えると腸のぜん動運動が抑制されてしまい、便秘が引き起こされることがあります。それを改善するには、腸を動かすためのエネルギーが必要です。そのエネルギーの60~80%の産生に、腸内の酪酸菌がつくる酪酸が使われています。そのため便秘の予防には、酪酸菌を積極的に摂取すると良いでしょう。
しかし、酪酸菌をはじめ善玉菌を多く含む食べ物を毎日バランス良く摂取することは、簡単ではないでしょう。そこで無理なく続けやすい習慣として、複数の善玉菌が配合された整腸剤を活用することもおすすめです。
プレバイオティクスを摂り入れる
プロバイオティクスが善玉菌自体を摂取するというものであるのに対して、「プレバイオティクス」は善玉菌のエサとなるものを摂取することで、腸内の善玉菌を増やすというものです。
これにより善玉菌が優勢になることで、悪玉菌が相対的に減るとともに、善玉菌がプレバイオティクスを食べて利用する過程で「短鎖脂肪酸」が発生します。短鎖脂肪酸には腸内を弱酸性にする働きがあるため、酸性に弱い悪玉菌の増殖を抑えてくれます。このようなメカニズムも加えた複数の経路で、プレバイオティクスが悪玉菌を減らすように働くとされています。
食品中の成分としては、食物繊維やオリゴ糖などがプレバイオティクスに該当します。
悪玉菌を増やす食品を摂りすぎない
すでに解説したように、動物性食品のタンパク質や脂質は悪玉菌を増やしやすいといわれています。また、添加糖が多く使われている超加工食品も摂りすぎには注意が必要です。
現代の日本人の食生活は、タンパク質や脂質ともに動物性への依存が高くなっています。タンパク質や脂質は、体を作ったりエネルギー源になったりと、生命活動には欠かせない栄養素でもありますが、動物性への依存度を控えることが大切です。
悪玉菌を減らすには、食事以外の生活習慣の改善も大切
睡眠を十分に取る
加齢や食習慣とともに、睡眠も腸内フローラのバランスの乱れと関連があることが知られています。例えば、腸内フローラには日内変動があって、ある種の細菌は日中に増加し夜間は減少する一方で、別の細菌はそれとは反対の変動をすることや、他の生活習慣を一定にして睡眠時間のみを短縮しただけで腸内フローラのバランスが崩れて耐糖能が悪化する(糖尿病になりやすい状態になる)こと、さらに、睡眠時無呼吸によって腸内フローラが変化して腸管のバリア機能が低下することなどがわかってきています。
対策としては、睡眠時間をしっかり確保するとともに、騒音や照明、室温・湿度、寝具のフィット感などの睡眠環境をチェックして、睡眠の質を高めることが大切です。
ストレスを減らす
脳と腸には深い関係があり、過度なストレスは悪玉菌を増やして善玉菌を減らすように働くことが知られています。また、ストレスと腸内フローラとの関連は、双方向性であることもわかっています。つまり、ストレスが腸内フローラのバランスを悪化させるだけでなく、腸内フローラのバランスが悪化することで、ストレスや不安を感じやすくなるのです。
対策としては、自分の趣味に没頭したり、読書や音楽などでリラックスしたり、友人や家族と話したりして、ストレスを解消することが大切です。
適度な運動をする
適度な運動も、悪玉菌を減らすためには大切な習慣です。習慣的に運動をしている人は腸内フローラの多様性が高いことや、アスリートのパフォーマンスが腸内フローラの多様性の高さと関係していること、また、肥満の子どもに運動を奨励すると腸内フローラのバランスが改善することなども知られています。
運動といってもスポーツのような激しいものではなく、ウォーキングなどでも十分です。例えば、外出した際にひと駅分歩く、エスカレーターをなるべく使わないようにする、いつもより遠くの店に買い物に行くなど、無理なく続けられる習慣を探すと良いでしょう。
悪玉菌をはじめ、腸内フローラは多様性を保つことが大切
悪玉菌は、増えすぎてしまうと便秘など体への悪影響を及ぼすことがある一方で、タンパク質を分解するなど生命活動には欠かせない働きも持っています。毎日を健やかに過ごすためには、腸内フローラの理想的なバランスを保ち、多様性を維持することが大切です。そのための習慣を無理なく続けるには、日々の食事にヨーグルトなどを加えたり、複数の種類の善玉菌を配合した整腸剤などを活用してみるのも良いかもしれません。
- [参考文献]
-
- ・日経BP,2024,内藤裕二「健康の土台をつくる 腸内細菌の科学」
- ・日医雑誌149(9),2020,内藤裕二「腸内細菌叢と環境要因」
- ・Functional Food 14(2),2020「ビフィズス菌の整腸作用」
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